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アジア海外駐在員の時間感覚

 

 アジアに駐在するととかく時間にルーズになる傾向にある。遅れる方も遅れられる方も大して気に留めない。車社会が中心で頼れる公共交通機関が少なければ尚更だ。「渋滞」は極めて「便利な」言い訳だ。本当は単に出発したのが遅くても「Jam(渋滞)」と言えば許してもらえる(気がする)。

 

 私が駐在するバングラデシュはその最たる国かもしれない。ただし、渋滞のレベルがリアルにハンパない。10キロ進むにも1-2時間は当たり前。道路にはあらゆる動くものが入り乱れ、信号もない(あっても機能していない)、ルールも皆無なのでちょっとやそっとの事では驚かなくなる。6月から雨期になると道路は穴が開いたり、めくれたりするので、ちょっと地方に行くと道端に転がっているバスやトラックを見ることも珍しくない。ラマダン期間中の1か月の特に日没時間近くになると、空腹と目の前の食事という欲で目が血走っているドライバーが多く、渋滞で車が1センチも動かないのに危険を感じることさえある。

 

 仕事でのアポもこの有様なので、夜の食事会、はたまた結婚式はもっとひどい。そもそも定刻に始まることを想定していないので、平気で1-2時間遅れる。結婚式に招待状の時間通りに行ったらまだ式場の設営最中だったり、主役の新郎新婦ですら居ないなどは当たり前の出来事だ。そしてまるで悪びれることないので怒ったり呆れたりするのがバカバカしくなる。そんな感覚でたまに日本に帰国し、鉄道が2-3分遅れようものなら「お客様には大変ご迷惑をおかけして申し訳ございません」と平身低頭する駅員を見ていると気の毒で仕方なくなる。自分が約束の時間に遅れそうになった時に「Jamだったので」という素敵なフレーズに使えずに困ることもある。

開始予定時刻の結婚式会場はまだ設営中・・・

開始予定時刻の某公式レセプション会場

 そんな不便さを突いたサービスが、ライドシェアであったりフードデリバリーなどであろう。東南アジアで大流行のこれらのサービスはバングラデシュでも大いに人気がある。食料品・日用品の配送サービスを行う“Chaldal”は、「注文から1時間でのお届け」をキャッチにしている。誰も時間を計ってないし、そもそも正直期待していないが、そんなに待たずに正確に届けてくれることが貴重だ。全体の規模としてはまだまだ小さいながらもec関連企業は雨後の竹の子状態。それだけ、特に若いデジタルネイティブ世代も時間に対して気にし始めている証拠かもしれない。2021年には日本のODAで建設中のモノレールも開通する。渋滞の解消が期待されるが、その定時運行による現地人の意識が変わることが一番の注目点化もしれない。

新居大介(あらいだいすけ)